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錯視とトリックアートから見る絵画論

 絵を描く、或いはデザインをする時、貴方は“感性(直感的)”で創作しますか?それとも、“理論(論理的)”で創作しますか?

 私はイラストレイターとデザイナーなので、丁度、感性と理論の中間的な立場、両方を意識して創作します。芸術家ではないので感覚に頼れませんし、研究者ではないので数式で構築する訳にも参りません。
 感性と理論の両方を意識し、或いは、無意識に内在させ創作する、そんな感じです。

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 さて、ちょっと下のグラフィックをご覧になってみて下さい。
 下図には、“ある文字”が隠されています。お分かりになりますでしょうか?

隠された文字1

 簡単過ぎましたでしょうか?

 はい、「ファッション」と云う文字が描かれています。

 解答としては「フアツシヨン」で正解です。ですが、「ファッション」でも正解です。
 いじわるクイズではありませんから、共に正解です。ちなみに、より厳格な解答は「フアヅシヨン」が大正解です。

 実は、これら以外にも文字が隠されています。これについては後述します。

 このホームページが“ファッション”の名を冠しているのですから、意図を酌み取って、或いは直感的に「ファッション」と答えるのが妥当ですし、間違ってはいません。
 厳密なフォントのスタイルやサイズを正確に目で追うのは困難ですし、また、正確に追えてしまっては、日常生活に支障を来す事さえ起こりえます。
 人間は、“賢い”ので視覚で捉えた情報を脳で整理して推測する能力を、ほんの僅かの間に行う事が出来ます。

 ですから、「ファッション」と答えた方は、より直感的に瞬時に、「フアツシヨン」と答えた方は、より論理的に慎重に、そう答えたのだと思います。

 また、注意しなければならないのが、上図に隠された文字を云い当てるには、日本語が理解出来なくてはなりません。
 「文字が隠されている」と云う出題内容から、グラフィックに溶け込むテキストを理解出来なければ、そもそも意味が通りませんし、逆に意味が分かるからこそ、“単語(文法上、意味・職能をもった最小の言語単位)”を思い浮かべ、「ファッション」と云う語彙を読み取った訳です。
 同様に、“文字”が隠されている、と云う事から推測すれば、単語である必要性がない為、その文字を的確に当て嵌め、「フアツシヨン」と正確性を求めても良い訳です。
 更に付け加えれば、それぞれのフォントが明朝体で形成されている事から「フアツシヨン」と正確性を期したと思われますが、フォントスタイルを意識しなけば「フアヅシヨン」と読み取る事が出来る筈です。
 何故なら、「ファッション」と単語で認識した場合、促音である「ッ」に濁点(゛)は付きませんから「フアツシヨン」と認知すれば、濁音の「ヅ」も考慮される筈です。フォントを意識すれば清音「ツ」になりますが、隠された“文字”にスタイルの指定はありませんから「フアヅシヨン」がより的確になります。
 いずれにしても、ファッション/フアツシヨン/フアヅシヨン、どれでも正解です。絶対に答えを“当てさせたくない”時にも、上記の様な講釈を垂れてみても構いません。
 但し、嫌われてしまうかもしれませんよ?

※「フアヅシヨン」の文字の大きさや形は微妙に弄って変形させています。

 さて、嫌がらせクイズでもないのに、何故、上記の様な解釈を書いたのか、と云いますと、絵画やデザインと云うものは、それを見た第三者の知識、洞察力、価値観、情報、更には無意識、且つ、潜在的な生理現象における迄、多種多様な捉え方が起こり得る、と云う事を知って貰いたかったからです。
 概ね、意識(情報量や認知力等)と無意識(生理的)とに区分され、上述に限っては「意識」に分類される解釈に該当します。

 文字情報を含む上図の様なグラフィックでは、視認者の情報格差による影響が大きく左右します。
 基礎情報を持っている者であれば様々な情報から分析が可能となり、様々な解釈が可能となり、逆に基礎情報を持たない者からすれば、解読不能な図柄として判断されます。

 それでは、より分かり易くお伝えする為に、錯視とトリックアートの解説を交え、進めて行きましょう。

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錯視とトリックアート錯視とトリックアート

錯視:
 錯視とは、視覚に関連する錯覚の事です。所謂、「目の錯覚」とも云われるものです。生理的錯覚に属するもので、特殊な図形や色相、その配置、配列、対比等によって正確な情報を読み取る事が困難、或いは、不正確な情報を読み取ってしまう現象を指します。
 後述しますトリックアートとは正反対の原理で、人間が本来持ち合わせている生理的認知力を不能にしてしまう、若しくは、誤認させてしまう図形や映像等の総称です。

 錯視は、正確な情報を不正確に知覚してしまう生理的錯覚に分類される現象ですから、写実性とは本来、無縁です。
 しかし、シュルレアリスムに照らし合わせた超現実の概念からすれば、錯視による不正確な誤認を視読者に与えるのは避けなければならず、過剰な現実性を演出する為に、敢えて錯視にならない様、不正確な情報を盛り込む事があります。
 逆に、ポップアートでは、印象効果や演出の為に錯視を取り入れる事もあります。
 いずれにしても、錯視はアートの創作に対して考慮すべき価値があり、それを避ける為にも、逆に取り込む為にも、知っておいて損のない分野です。

トリックアート:
 フランス語で「眼を騙す」の意味を持つトロンプルイユ(Trompe-l'oeil)が大元。日本では、「だまし絵」として広く認知されています。
 シュルレアリスムにおいて用いられる技法です。
 その手法は広い分野に使われ、絵画は勿論、彫刻や建築物に至る迄、様々な作品が残され、今尚、数多くの面白可笑しい作品がトリックアートとして注目されています。

 トリックアートは、人間が目で見た見掛けの見え方の特徴を最大限に活かした技法で、非現実的な事象や不思議な空間、錯覚等の印象を与える手法です。
 よく見られる手法が、遠近感や立体感、陰影、質感等、平面上に描かれる立体像を誤認させる作品です。

 人間は、多くの情報を目から光学的に取得します。必然的に視覚に頼る事が殆どとなり、目標物を触覚で確認でもしない限り、それを“真”と判断します。
 しかし、実際には、目による光学的な見知は乏しく、真偽の判断の殆どは“記憶”によってなされており、視覚で捉えた像を記憶の中の像に適合させているに過ぎません。

 下図をご覧下さい。

ウェブページが剥がれ落ち、ソースやコードが覗いて見える図:トリックアート

 すみません、手抜き作業なもので、これをトリックアートと云うのは大変、失礼な話なのですが、大目に見て下さい。
 なんとなくですが、ウェブページが壊れて、中の構造が覗き見られる様な気がしませんか?

 勿論、これは絵ですし、そもそもウェブページの構造は、この様なものにはなっていません。イメージとして“有り得るかな”程度のものです。

 トリックアートの基礎概念は、より多くの人達がこう思うであろう、事を予想、推測して描く事にあります。

 錯視が直接、目に光学的な錯覚を与えるのに対し、トリックアートは、脳の記憶に錯覚を与えるものです。錯視は“光の錯覚”、トリックアートは“色の錯覚”、と呼べるかもしれません。
 共に視読者に錯覚を与えるものですが、前者は無意識に、後者は意識に対して、これを知覚させ、逆の性質を持ちながらも、共に情報を操作する効果を持ち合わせているのです。

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錯覚から考察する絵画論錯覚から考察する絵画論

 写真が登場する以前、意思伝達の手法としての絵画の存在意義は写実性にあり、視覚表現を絵と云う媒体を通して広く伝え、再現芸術に代表される模倣や観察、考察、分析がなされて来ました。
 特に、貴人の肖像画は実物よりも美しく、宗教画は現実よりも幻想的にと、常に対象との相対的な立場からこれを記し、再現する必要がありました。
 これにより絵画は、基礎として正確性をまず把握し、次にどの様な印象を与えるかを考察し、より適切な演出効果を導き出し、最終的にこれを表現する技巧を以て完成させるに至りました。
 これが再現を超えた超再現、現実を超えた超現実になります。
 超現実は、決して現実を超えた非現実として認識させるものではなく、過剰な迄の現実と云う印象を与える目的で創作されているのです。云い換えるのであれば、現実と錯覚させる、それが目的なのです。

 そもそも絵画は、壁面やキャンバス等記す材質は異なるものの、平面に描かれるのが常です。
 人間の目は、立体的に物を捉えますから、必然的に絵画で再現度を高める為には、平面上で立体的な表現が必要になって来る訳です。
 つまり、2次元と云う平面上に3次元と云う空間を築く作業が、やがて、平面上に立体像が存在しているかの様な錯覚を与える芸術に昇華したのです。
 従って、絵画と云うものは、その全てにおいて必ず錯覚を用いて描かれており、極端な話、全てをトリックアートと呼んでも間違いではありません。

 下図をご覧下さい。

錯覚を与える出鱈目な立体像

 これを立体像として認識してしまうと支離滅裂です。
 面白い訳でも、考え込ませる訳でも、深い訳でもありません。立体像として知覚するのであれば、出鱈目な、実に浅いグラフィックです。
 しかし、これは立体像ではありません。平面上に配置されたピンク、ブルー、ブラックの三色のカラーによる組み合わせにしか過ぎません。

 先述した通り、日本語を理解出来なければ「メルヴェイユ」の文字は、只のグラフィックとしてしか知覚出来ません。
 そして、平面上での配色に過ぎませんから、立体像として整合性が取れている必要性がありません。そもそも、何も再現していません。あるとすれば、若干の錯覚ぐらいです。

 上記を踏まえ、絵画やデザインは、視認者がどの様に情報や印象を受け取るか、を考慮すべき事が錯視やトリックアートの観点から窺えます。
 勿論、抽象的なポップアートや娯楽的な漫画、数学的な建築図、社会をイメージした風刺画等、写実性ならざる絵画やデザインに至っても、第三者への影響を考慮すべきものである事を意味します。

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 さて、冒頭で紹介した「隠された文字」のグラフィック。

 6つの文字がありましたが、冒頭の場合、文字が隠れていると云うよりは、読み取り辛いだけのパスワード認証文字、と云った印象でした。
 しかし、実際には、もっとクリアな文字情報を埋め込んであります。

 その隠された文字を明瞭にする為に、少しだけ小細工をします。
 6つの塊となっているグラフィックに、それぞれコインを置いてみます。
 丁度、「ファッション」と見られる文字を隠す様に配置してます。

 一度、冒頭のグラフィックに戻って確認されて見た方がより分かり易いかもしれません。

 それでは、下図をご覧下さい。

隠された文字2

 お分かり頂けましたでしょうか?
 「メルヴェイユ」の文字が浮かんで見えます。
 そうです、このホームページのタイトルが隠されていた訳です。

 比較的、分かり易い情報でしたから、当初から見抜く事が出来た方も多いと思います。ですが、これをコンピュータが読み取る事は出来ません。
 この見え方は、人間ならではの受け取り方に則しています。
 つまり、錯覚、を用いています。

 皆さんも、絵を描く時、デザインをする時、受け取る手の想いや印象を考えてみて下さい。
 何も考えないで描くより、格段に品質は向上し、良い作品を創作する事が出来ると思います。

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